あなたと幸せになりたいのです 『くたばれ地下アイドル』


 ファンってなんなんだろう、と最近よく考える。
 すごく勝手な存在だと思う。自分がファンであるということについて考えても、どうしたって自分勝手だとしか思えない。勝手に夢を見て、勝手に想像して、勝手に気持ちを推しはかって、勝手に理想を押し付けて。自分ができもしないものを相手に望んだりもする。勝手だなぁ。
 そんな折に、この『くたばれ地下アイドル』を読んだ。さまざまな「アイドル」とその周囲を扱った短編集で、いいなと思う話もあるしそんなに響かない話もある。しかし、なかでもとんでもなく刺さってしまった一編があるので紹介したい。それが現在web上で全文公開されている「寄る辺なくはない私たちの日常にアイドルがあるということ」だ。

 

寄る辺なくはない私たちの日常にアイドルがあるということ――小林早代子 『くたばれ地下アイドル』 | 試し読み | Book Bang -ブックバン-

 

 「寄る辺なくはない私たちの日常にアイドルがあるということ」は、ジャニーズJr的存在である男の子アイドルを推している女性・ちさぱいを主人公とした短編で、彼女とハロー!プロジェクトの研修生的存在の女の子アイドルを推している男性・神谷との会話が見どころとなっている。ちさぱいはあまりお金は使わないタイプのファンで、一方神谷は割とどぼどぼとお金を使うタイプのファンだ。神谷は自分がアイドルにお金を使うことをこう表現する。

 

(前略)初詣で、わけもわからず神に祈ってるのと同じなんですよね。あれって、別に神様のために祈ってるわけじゃないじゃないですか。確かなことはないけど、僕ともにゃにとって何かが好転するはずって祈りをこめてお金を落としてるんですよね。それで祈ったあと、ちょっと気分が良くなれば、僕にとってそれがもう全てなんですよ。もにゃのためじゃなくて、自分のために祈ってるっていうのを忘れないことが、僕の誠実さなのかなって、最近は思うようになったんですよね」

  

 つい先日、握手券もなんらかの応募券もついていないCDを複数買った。初回盤と通常盤を買うという意味ではなく、初回盤も通常盤も何枚かずつ買った。正確に言うと初回盤はAとBがあったのでどちらも何枚かずつ買った。絶対にオリコン1位が欲しかったし、売上の数字も伸びてほしかったから。
 神谷はお金を使うことを「祈り」と言う。私がお金を使うのにもその面はあると思った。沢山祈った。私と私の大好きなアイドルが幸せでありますようにって。
 CDを買ってPOSを通してカウントされるタイプの愛を届けたかった。沢山買うことが偉いわけではないし、沢山買わないといけないわけでもない。ただ、届けたかった。あなたが必要です、どこにもいかないでって、数でその気持ちが届くのなら届けたいと思った。この「届けたい」もある種の祈りなのだろうか。

 ファンとアイドル(とは限らないが、ファンが対象とするもの)って、とても特殊な関係性だと思う。関係性、という言葉で呼べるほどの関係ではないのかもしれない。友達でもないし、恋人でもないし、家族でもないし、知り合いですらない。でも、ファンとアイドルは、一緒に幸せになることができる関係だと思う。思う、というかそう信じたいのかもしれない。かつて、私はアイドルと一緒に幸せを感じたことがあるから。きっとこの先もそういうことが起こりうると、信じている。

 たぶん(というか確実に)、私が今応援しているアイドルが去っていったとしても、私の人生は終わらない。日常は続いていく。彩りを失いながら、それでも日常は続いてしまう。彼らのせいにはしたくないし、しないけれど、でも彩りを失う。
 できるだけ長く、私が見ていられるところにいてほしい。だけどつらい思いはしてほしくない。幸せでいてほしい。できることなら一緒に幸せになりたい。
 あまりにも願うことが多すぎる。私は、やはり自分勝手なファンだ。

 

くたばれ地下アイドル

くたばれ地下アイドル