いいじゃん、別に。『ウチらは悪くないのです。』阿川せんり

 主な登場人物は、美人だけどいろいろ無頓着な「あさくら」と小説家志望の「うえぴ」。この二人が織りなす北海道の大学生ライフ。だいたいスタバでだらだらと喋っている。

 うえぴは文芸サークルに所属し、小説家になりたくて小説を書いている。投稿も視野に入れ長編執筆に乗り出すつもりだ。あさくらはだらだらしながら日々を過ごしている。そんなあさくらを見かねて、あさくらの周りの人々(主に「さわみー」)はあさくらをサークルに入れようとしたり彼氏を作ろうとしたり身なりに気を遣わせようとしたりバイトを勧めてきたりする。あさくらはあさくらなりにそれらに対して頑張ってみたりもするが……というのが大体のあらすじ。

 何か大きな事件が起きるわけではないけれど、文章のテンションが比較的高いので面白く読める。派手な物語を期待する人には合わないかもしれないけれど、日常に近いところの高度で展開する話を求める人にはオススメかも。

 

ウチらは悪くないのです。

ウチらは悪くないのです。

 

 

・二人の関係性

 女同士の友情はねちっこくて裏があって……的なテンプレートは聞き飽きた。阿川せんりさんの書く女の子たちの関係性は、そんなテンプレートには当てはまらない。アンソロジー『美女と竹林』の女子カップルたちはイチャイチャだし、『行きたくない』の養護教諭と生徒はなんとも名付けようのない関係性だ。

 うえぴとあさくらの関係性は、割とドライだ。仲は良いけど、踏み込み過ぎないというか。こういう関係性、全然ある。全然こういう女子いるし、こういう関係性の女子たちもいる。そんな「あるある」に近い関係性が、なんの注釈もなしにさらっと書かれていることが、なんだかいいなと思う。小説を読んでいると、たまに「さすがにこういう関係性は誇張かな」と思うものもある。小説はフィクションだし、リアリティを求めているわけではないので気にせず読むけれど、そこに引っかかりを覚えない小説もあるんだなぁと新鮮に感じた。(でもきっとこういう関係性に引っかかりを感じる人もいるだろうと思う。それは生きてきた環境の違いというやつだ。私は割とうえぴとあさくらみたいな関係性のなかで生きてきたと思う)

 今のところ、うえぴとあさくらは友達として仲良くやっている関係性だけれど、もしかしたらこの先うえぴが誰かと大恋愛することだってあるかもしれないし、あさくらがバイトに目覚める可能性だってある。けどそんなことはぶっちゃけ大した問題ではない。大切なのは、今のこの二人が、「ウチらの友情は永遠だよね」ってわざわざ言葉にしなくても(ていうか二人ともそういうのガラじゃないから絶対しないと思う)、当たり前みたいに確信しているってことだと思う。そういう「永遠」って確かにあったなぁと思ってなんだか懐かしくなった。

 

 

・タイトルの話

 このタイトル、『ウチらは悪くないのです。』は、一見すると「悪くない」と開き直っているようにも見える。何かをしでかして自分たちは悪くない、悪いことはしていないと言っているような。しかし実はそうではないと、読んでいくうちに気づく。

 開き直るとか、そういう意味じゃない。この「悪くない」は、「きみたちの人生、そんなんじゃよくないよ」「もっとこうしなよ」と言われることに対しての、「ウチら(の人生/生き方)は悪くないのです。」だ。控えめだけど、確かな肯定の表現。

 あさくらは、周囲からさまざまな干渉を受ける。同じ講義をとっていたさわみーのせいであさくらに対して悪い感情は抱いていない「にさか君」と付き合うこととなり、しかしそのにさか君はエネルギッシュに生きていて、日々だらだらしているあさくらとは話が合わない。

 エネルギッシュに生きることが、やること・やりたいことに満ちているだけが、「いい人生」なのだろうか。自分が「いい」と思えたら、それが一番いいんじゃないのか。私が「いい」と思うことは、誰かにとっては「いい」とは思えないことかもしれないのに、それを押し付けるのはどうなんだろう。たとえば私は小説が好きだから日々読んでいるけれど、人によっては小説なんて読んでも時間の無駄だと思う人もいるだろう。そんな人に小説読みなよって言ってもしんどいだけだし、そんな人から小説読んでも無駄だよって言われても私も納得できない。お互い、それぞれの「いい」ものを選んでいけばいいよねって思う。

 

 私も、私のことは悪くないなって思う。

 PMSが凄まじくて生理前の2週間は圧倒的不調で起き上がることすらできないこともあるし、生理が来たら1日は休まないと体が動かないし、メンタルは常に不安定だし、いい仕事につけてお金が稼げてるわけでもないし、そもそも仕事に対してギラギラしたやる気があるわけでもないし、美人に生まれたわけでもないし、何かの才能に恵まれたわけでもない。けど、悪くない。

 つい先日、自分以外の生き方はゴリゴリに否定していく(心の中で思うだけでなく言葉に出していく)タイプの人と話す機会があった。その人の話を聞く限り、私の生き方なんてクズとかゴミなんだろうな〜って感じでちょっとへこんだけど、そのタイミングでこの本を読んで、私は私の生き方を悪いとは思ってないんだよなって思った。じゃあいいじゃん、別に。誰が何を言ったって、ねぇ?

 私は私の、悪くない人生を生きていくよ。